「認知症かもしれない」と思ったとき、最初に迷うのが相談先
同じ話を何度もするようになった。約束を忘れる回数が増えた。冷蔵庫に同じ食材がいくつも入っている。──こうした変化に気づいたご家族から、「これは年齢のせいなのか、それとも病気なのか」「どこに相談したらいいのか」というご質問をよくいただきます。
認知症は、脳の病気や変化によって記憶や判断の力が低下し、日常生活に支障が出ている状態を指します(厚生労働省「認知症施策推進大綱」2019年)。原因となる病気はひとつではなく、治療やケアの方針も原因によって変わります。だからこそ、まずは「どこに持ちかけるか」を整理しておくと、その後の動きがはっきりします。
認知症の相談は、どこに持ちかけるとよいか

相談先はいくつかあり、それぞれ役割が違います。順番に全部回る必要はなく、いま困っていることに近いところから始めて構いません。
| 相談先 | 主な役割 | 向いている場面 |
|---|---|---|
| かかりつけの内科など | 普段の体調や服薬を把握したうえでの初期相談、必要に応じた紹介 | 持病があり、長く診てもらっている医師がいるとき |
| 心療内科・精神科、もの忘れ外来 | 認知機能の評価、原因の見立て、薬の検討、ご家族への助言 | 記憶や行動の変化そのものを相談したいとき |
| 地域包括支援センター(自治体により名称が異なります) | 介護保険の申請、介護サービスや地域の窓口の案内 | 生活面の支えや介護の準備を考えたいとき |
| 認知症疾患医療センター | 専門的な鑑別診断、地域の医療・介護との連携 | 診断がはっきりせず、詳しい検査が必要なとき |
医療の相談なのか、生活や介護の相談なのかで入口が変わります。両方が気になる場合は、どちらかに相談したうえで、もう一方へつないでもらう流れになることが多いです。練馬区にお住まいの方は、お住まいの地域を担当する窓口が決まっていますので、区の公式ページか区役所の高齢者福祉の担当課で確認してみてください。
病院を受診する目安になりやすい場面
何日続いたら、という線引きがあるわけではありません。受診を考える手がかりになりやすいのは、「物忘れがあるかどうか」ではなく「生活に支障が出ているかどうか」です。
- 同じ話や同じ質問が繰り返され、繰り返したこと自体を覚えていない
- 通い慣れた道で迷った、帰り道が分からなくなった
- お金の管理や支払いでつまずくことが増えた
- 服薬の管理が難しくなり、飲み忘れや重複が起きている
- 趣味や外出をやめてしまい、身だしなみへの関心が薄れた
- 怒りっぽくなった、疑い深くなったなど、性格の印象が変わった
こうした変化が以前と比べて進んでいる、あるいは日に日に目立つようになっているときは、様子を見続けるより一度相談したほうが整理がつきます。また、急にぼんやりしてきた、短期間で様子が大きく変わったという場合は、脱水や感染症、薬の影響など別の原因が隠れていることもあります。急な変化は早めの受診をおすすめします。
加齢によるもの忘れとの違いで、気になりやすい点
年齢を重ねれば誰でも名前が出てこなくなります。ご家族が見分けに迷うのは自然なことで、最終的な判断は診察と検査を経たものになります。そのうえで、相談の場で手がかりとして伺うことが多いのは次のような点です。
| 場面 | 加齢に伴うもの忘れで見られやすいこと | 受診を考えたい様子 |
|---|---|---|
| 体験の記憶 | 出来事の一部を忘れる(何を食べたか思い出せない) | 出来事そのものを忘れる(食べたこと自体を覚えていない) |
| 自覚 | 忘れっぽさを本人が気にしている | 忘れている自覚が乏しく、指摘を否定する |
| 手がかり | ヒントがあると思い出せる | ヒントがあっても思い出しにくい |
| 生活 | 日常生活は保たれている | 家事・金銭管理・服薬などに支障が出ている |
この表は見分けを保証するものではなく、受診の際に伝えていただくと役に立つ観点です。判断は医師が診察と検査をあわせて行います。
病院に行く前に、ご家族が整理しておきたいこと

初診の時間は限られています。ご本人は「困っていない」とお話しになることも多く、ご家族の情報が診察の大きな手がかりになります。難しくまとめる必要はありません。メモ用紙一枚で十分です。
- 気づいたのはいつ頃か:季節や行事と結びつけると思い出しやすくなります(「去年の正月は普通だった」など)
- 具体的な出来事:日付と内容を箇条書きで。印象ではなく実際にあった場面を
- 変化の順番:もの忘れが先か、意欲の低下が先か、歩きにくさが先か
- お薬:お薬手帳をそのままお持ちください。市販薬やサプリメントも含めて
- 持病と既往:高血圧、糖尿病、脳卒中、頭部のけが、うつ病の治療歴など
- お酒の習慣:量と頻度
- 生活の状況:同居か独居か、日中どなたが見ているか、運転をしているか、火の始末はどうか
- いちばん困っていること:ご家族として今いちばん解決したい一点
ご本人の前では言いにくい内容もあります。そのときは紙に書いて渡していただければ、診察の流れを損なわずにお伝えいただけます。
初診で聞かれること、行われること
医療機関によって進め方は異なりますが、おおむね次のような流れです。
問診
いつからどんな変化があるか、生活にどう影響しているか、持病や服薬、生活環境などを伺います。ご本人とご家族の双方からお話を伺うことが多く、別々にお聞きすることもあります。
認知機能を確かめる質問式の検査
日付や場所、簡単な計算、言葉の記憶などを問う検査を行うことがあります。点数そのものが診断名を決めるわけではなく、診察や生活の様子とあわせて見るための材料です。「テストをされる」と感じて身構える方もいらっしゃいますので、事前に「頭の調子を調べる簡単な質問があるみたい」とお伝えしておくと、場が落ち着きやすくなります(受け止め方には個人差があります)。
身体の診察・血液検査
甲状腺の働きやビタミンの不足、電解質の異常など、認知機能の低下に関わる身体の状態を確かめます。原因がこうした体の問題であれば、対応の仕方が変わってきます。
画像検査
原因を詳しく調べる必要があると判断された場合、頭部のCTやMRIなどの画像検査を行える医療機関を案内されることがあります。初診で全部が終わるとは限らず、複数回に分けて進むのが一般的です。
ご本人が受診を嫌がるとき
「自分は大丈夫」「どこも悪くない」と言われて動けない、というご相談はとても多いです。説得を重ねるほど意固地になってしまうことも少なくありません。工夫としてよく使われるのは次のような形です。
- 認知症の検査ではなく、健康診断や持病の相談という名目で受診する
- ご本人が信頼している方(かかりつけ医、長年の友人、離れて住むお子さんなど)から勧めてもらう
- 「私が健康のことで相談したいから、ついてきてほしい」とご家族の付き添いとしてお願いする
- まずはご家族だけで医療機関や地域の窓口に相談し、関わり方の助言を受ける
当院では、ご本人が受診を嫌がる・来られない場合に、ご家族だけでお話を伺う家族相談を行っています。費用は13,200円(税込・自費診療)で、回数は状況によって異なります。ご本人を診察していないため、この相談で診断がついたり、お薬が出たりすることはありません。状況を伺ったうえで、次にどう動くかを一緒に考え、必要であれば訪問診療につなげることもあります。
本人が受診を嫌がるときの考え方は、家庭環境の悩みと心の不調|本人が受診を嫌がるときの選択肢でも取り上げています。
費用と通院の負担をどう考えるか
認知症の診察や検査は、健康保険が使えます。窓口でのお支払いは年齢や所得に応じた自己負担割合に沿った金額になり、検査の種類や回数によって変わります。あらかじめ総額を正確に出すことは難しいため、気になる場合は受診前に医療機関へ確認しておくと見通しが立ちます。
通院で見落とされやすいのが、ご家族側の負担です。平日の日中に仕事を休んで付き添えるか、車や公共交通で無理なく通えるか、待ち時間に本人が落ち着いていられるか。診断がついた後も通院は続きますので、「続けられる場所かどうか」は相談先を選ぶときの大事な基準になります。
あわせて、介護保険の申請も早めに検討しておくと生活面の支えにつながります。申請は市区町村の窓口で行い、かかりつけ医が主治医意見書を作成します。医療と介護は別々に進むものではなく、両方を並行して整えていく形になります。
当院でできること(ケルソンファミリークリニック)
当院は東京都練馬区大泉学園町にある、心療内科・精神科・内科のクリニックです。認知症のほか、うつ病、双極性障害、適応障害、不安障害、睡眠障害などを診療しており、ご家族単位でのご相談も受けています。院長の田中良恵は精神保健指定医です。
通いやすさに関わる点として、当院の診療時間は午前9:00〜12:30、午後14:30〜18:00で、水曜が休診日です。土日祝日や年末年始も診療しているため、平日に仕事を休みにくいご家族でも付き添いの予定を立てやすくなっています。受診は予約なしでも可能ですが、予約優先です。電話・LINE・メール・ホームページからご予約いただけます。
交通は西武線大泉学園駅から西武バス「大泉郵便局」下車徒歩1分です。お車の方には提携駐車場(タイムズ大泉学園町第2・第4)があり、割引チケットをお渡ししています。火曜・金曜・土曜の午前のみ送迎サービスも行っており、土曜は原則としてクリニックと大泉学園駅の間の運行です(受付は9:15〜)。
通院が難しくなった方には在宅療養支援も行っており、24時間365日の体制で、緊急時の往診にも対応しています。訪問診療の対象や費用の考え方は訪問診療の精神科を練馬区で探すとき|対象と費用の目安に、夜間や休日の連絡の取り方は訪問診療の精神科で緊急のとき|夜間・休日の連絡の順番にまとめています。
ご家族が「これは年齢のせいだろうか」と迷っている段階でも、お話を伺うことはできます。はっきりしないまま抱え込むより、一度言葉にしてみると、次に何を確かめればよいかが見えてきます。