「ただの心配性」と不安障害は、どこが違うのでしょう

不安は、本来わたしたちを守ってくれる働きです。大事な場面の前に胸がどきどきするのも、危なそうな道を避けようと思うのも、ごく自然なこと。問題になるのは、その不安がきっかけに対して強すぎるとき、そして生活のほうが不安に合わせて狭くなっていくときです。
たとえば、電車で具合が悪くなってから各駅停車しか乗れなくなった。人前で話す予定が決まると前の晩から眠れない。会議や買い物など、以前はなんとなくこなせていた場面を少しずつ避けるようになった。こうした「避ける行動」が増えてくると、不安は小さくなるどころか、避けた範囲のぶんだけ広がっていきます。
当院には、「自分の気持ちの問題だから、病院に行くほどではないと思っていました」とお話しされる方が多くいらっしゃいます。けれど、動悸やめまい、息苦しさ、おなかの不調といった身体の症状が続いているなら、それはもう身体に出ているサイン。気持ちの強さの話ではありません。
不安障害と呼ばれるものの主なタイプ
| タイプ | 中心にある困りごと | よくある行動の変化 |
|---|---|---|
| パニック症 | 突然の動悸・息苦しさ・めまいの発作と、「また起きるのでは」という予期不安 | 電車・美容院・高速道路など、すぐ出られない場所を避ける |
| 社交不安症 | 人に見られる・評価される場面での強い緊張 | 発表や電話、会食を断る。人前で手や声が震える |
| 全般不安症 | 仕事・家族・健康など、対象が次々に移る心配が続く | 常に気が張って疲れる、眠りが浅い、肩こりや頭痛 |
| 広場恐怖症 | 助けを得にくい場所・状況への強い恐れ | 外出や一人での移動が減る |
これらは重なって現れることもありますし、うつ状態や不眠を伴うこともあります。診察では、どのタイプかを決めつけるよりも、どんな場面で、どんな症状が、どのくらい生活を邪魔しているかを一緒に確かめていきます。
心療内科と精神科、どちらを選べばよいか
ここで迷って足が止まる方が、とても多いところです。おおまかには、こう考えていただいて差し支えありません。
| 主に扱う入り口 | こんな方に向いています | |
|---|---|---|
| 心療内科 | ストレスと関係した身体の症状(動悸、息苦しさ、腹痛、めまい、頭痛、不眠など) | 身体の不調が前面にある/内科で検査をして異常がなかった |
| 精神科 | 気分、不安、思考、行動の症状 | 気持ちの落ち込みや不安そのものがつらい |
とはいえ実際の診療では、この二つはきれいに分かれません。不安障害は、こころの症状と身体の症状が必ずと言っていいほど一緒に出るからです。どちらを標榜していても、不安障害は診療の対象になります。「精神科は敷居が高い」と感じる方が心療内科という看板から入ってこられるのは、ごく自然な流れです。
当院は心療内科・精神科・内科をあわせて標榜しています。動悸や息苦しさの原因を確かめるために血圧や血液検査などの内科的な確認から入ることもできますので、「身体の病気なのか、不安からくるものなのか分からない」という段階でもご相談いただけます。めまいが主な症状で迷っている方は、内科でめまいを相談するとき|3つの感じ方と受診の目安もあわせてご覧ください。
不安障害の治療は、大きく三つの柱でできています

1. 精神療法(考え方と行動へのはたらきかけ)
不安障害でよく用いられるのが、認知行動療法の考え方です。不安が高まる場面で頭に浮かぶ考えを一度書き出して眺めてみる、避けている場面に少しずつ段階を踏んで近づいてみる、といった進め方をします。発作が起きたときの身体の変化(呼吸が速くなる、筋肉が固くなる)を理解しておくことも、この柱の一部です。
すぐに効果が出るものではありませんし、取り組み方や感じ方には個人差があります。ただ、「不安が来たときに自分がどう動くか」の選択肢を持っておくことは、通院が終わったあとにも残る部分です。
2. 薬物療法
症状の強さによっては、お薬を併用します。不安や気分に関わる神経伝達物質にはたらく薬を日常的に使うもの、発作が起きたときや強い場面の前に頓用するもの、眠れないときに使うものなど、役割が違います。
よくいただくご質問が「どのくらい飲み続けるのですか」というもの。これは症状のタイプや経過によって大きく変わるため、あらかじめ期間をお約束できるものではありません。自己判断でやめると症状が戻ったり、体調の変化が出たりすることがあるので、減らすときも必ず診察で相談しながら進めます。当院では、どんな目的でそのお薬を出しているのかを、その場でご説明するようにしています。
3. 生活のリズムと身体の状態を整える
睡眠が削られると不安は感じ取りやすくなりますし、カフェインやアルコールは動悸や中途覚醒と結びつきます。甲状腺の病気や貧血、不整脈など、身体の病気が似た症状を起こすこともあるため、必要に応じて検査を行います。治療の土台を整える部分で、精神療法とお薬のどちらにとっても大事なところです。
初診では、どんなことを聞かれますか
「何を話せばいいのか分からない」という不安が、受診を遠ざけてしまうことがあります。実際の診察でうかがうのは、おおむね次のようなことです。
- いちばん困っている症状と、それが始まった時期
- どんな場面で強くなるか/おさまるか
- 避けるようになった場所や行動があるか
- 睡眠、食欲、体重の変化
- 仕事や学校、家庭での影響(休んだ、辞めようと考えた、など)
- これまでの病気、現在飲んでいるお薬、お酒やカフェインの量
- ご家族に似た症状の方がいるか
うまく話せなくても構いません。困っていることをメモに書いて、そのまま渡していただくだけでも十分です。持ち物は、健康保険証(またはマイナ保険証)、お薬手帳、他院の紹介状や検査結果がある方はそれ。会社や学校に提出する書類が必要になりそうなら、その用紙も初診でお持ちいただくと話が早く進みます。
当院は予約優先ですが、予約なしでの受診も可能です。電話・LINE・メール・ホームページからご予約いただけます。
費用と通院のペースは、どう考えればよいでしょう

保険診療での自己負担
不安障害の診察やお薬は健康保険の対象です。70歳未満の方の窓口負担は原則3割(健康保険法に基づく自己負担割合)。これに院外薬局でのお薬代が加わります。
自立支援医療(精神通院医療)という制度
通院が続く見込みのある方には、自立支援医療(精神通院医療)という制度があります。障害者総合支援法に基づく公費負担医療で、精神疾患の通院医療費の自己負担が原則1割となり、世帯の所得に応じた月額の上限も設けられています(厚生労働省「自立支援医療(精神通院医療)」)。申請の窓口はお住まいの自治体で、医師の診断書が必要です。当院でも申請用の診断書を作成しています(料金は当院ホームページの料金表に掲載しています)。
通院のペース
はじめのうちは状態の変化やお薬の効き方を確かめるために短い間隔で、落ち着いてきたら間隔をあけていく、というのが一般的な流れです。ペースは症状や生活の状況によって変わりますので、診察のたびに相談しながら決めていきます。
当院の診療時間は午前9:00〜12:30、午後14:30〜18:00(水曜休診)。土日祝・年末年始も診療していますので、平日に休みを取りにくい方でも通い続けやすい形を取っています。通院の負担が大きいときには、オンライン診療もご利用いただけます(通常の処方箋と電子処方箋の両方の発行が可能です。薬剤の配送サービス「とどくすり」に登録された方は薬の配送も可能です)。
こんなときは、早めに相談してください
受診の目安は「何日続いたか」よりも、生活がどう変わったかで考えるほうが実際的です。
- 不安や発作のせいで、行かなくなった場所・やめた予定がある
- 仕事や学校を休んだ、あるいは休みたいと思う日が増えている
- 眠れない日が続き、しばらく様子を見ても変わらない
- お酒や市販薬で不安をしずめることが習慣になりつつある
- 動悸や息苦しさで救急を受診したが、検査では異常がないと言われた
- 気分の落ち込みが重なり、何をしても楽しめない
胸の痛みが強い、意識が遠のく、片側の手足に力が入らないなど、身体の急な異常が疑われる症状があるときは、まず救急での対応が必要です。迷ったときは、ためらわずに救急相談窓口へご連絡ください。
ご本人が「行きたくない」と言うとき
不安障害では、受診そのものが不安の対象になることがあります。「外出が怖い」「何か言われるのが怖い」と、玄関で止まってしまう方も少なくありません。
当院では、ご本人が受診を嫌がる・来られない場合に、ご家族だけでご相談いただく枠を設けています。健康保険の対象外となる自費の相談で、費用は1回13,200円(税込)、30分程度です。ご本人が同席されないため、その場で診断を行ったり、ご本人へお薬を処方したりすることはできません。状況をうかがったうえで、どう声をかけるとよいか、訪問診療などほかの入り口が合うかを一緒に考えます。ご家族の関わり方については、家庭環境の悩みと心の不調|本人が受診を嫌がるときの選択肢でも詳しく書いています。
発作が起きたときに、自分でできること
パニック発作は、身体が「危険だ」と勘違いして一気にアクセルを踏んだ状態です。呼吸が速く浅くなると、かえってしびれやめまいが出やすくなります。そこで、吐く息を吸う息より長くすることを意識すると、速くなった呼吸のリズムが整いやすい状態をつくれます(感じ方には個人差があり、すべての方に同じように働くものではありません)。
あわせて、足の裏が床に触れている感覚、手に持っているものの温度など、いま身体に届いている感覚に注意を向けてみてください。発作そのものを消す方法ではありませんが、「過ぎ去るのを待つあいだの過ごし方」を持っておくことが、次の場面の負担を軽くすることにつながります。
そして、この対処法は治療の代わりにはなりません。発作をくり返しているなら、背景を一度診察で確かめておくことをおすすめします。
よくある質問
不安障害は心療内科と精神科のどちらで診てもらえますか
不安障害の治療費は保険が使えますか
初診では何を話せばよいのか分かりません
薬を飲み始めたら、ずっとやめられなくなりませんか
本人が受診を嫌がる場合、家族だけで相談できますか
最後に
不安障害は、気の持ちようで片づけるものではなく、治療の方法がある状態です。そして治療の入り口は、立派な決意ではなく「最近こういうことが起きています」という一言で足ります。
当院は東京都練馬区大泉学園町にあり、土日祝も診療しています。平日は動けないという方も、まずはご都合のつく日に、困っていることをそのままお話しいただければと思います。(院長 田中良恵)