精神科の訪問診療とは、どんな医療なのでしょうか
「家族がもう何年も家から出られない」「通院が途切れてしまって、そのままになっている」。そんなご相談を、当院でもよくいただきます。こころの不調は、調子が悪いときほど外出そのものがむずかしくなるもの。通院できないことが、そのまま治療の中断につながってしまうことも少なくありません。
精神科の訪問診療は、医師が定期的にご自宅へ伺って診察し、治療やお薬の調整、生活全体のご相談までを続けていく仕組みです。病院の診察室ではなく、暮らしの場に医療が入っていく。だからこそ見えてくるものもあります。部屋の様子、食事のとり方、ご家族との距離感。診察室では語られにくいことが、ご自宅では自然と話題になることもあります。
この記事では、練馬区でご家族やご本人のために精神科の訪問診療を探している方に向けて、どんな方が対象になるのか、往診との違い、費用のおおよその考え方、そして申し込みまでの流れを順に整理していきます。ケルソンファミリークリニック(練馬区大泉学園町)でも在宅療養支援に取り組んでおり、当院の体制についても該当するところで触れます。
訪問診療と往診は、同じものではありません

最初につまずきやすいのが、この2つの言葉です。似ていますが、意味が違います。
| 訪問診療 | 往診 | |
|---|---|---|
| タイミング | あらかじめ決めた日程で定期的に訪問 | 急な体調変化などに応じて臨時で訪問 |
| 計画 | 診療計画を立てて継続的に行う | その時々の求めに応じて行う |
| 主な役割 | 治療の継続、薬の調整、状態の把握 | その場で起きている問題への対応 |
つまり訪問診療は「通院の代わりになる、続いていく医療」。往診は「困ったときに来てもらう医療」です。実際には、訪問診療を受けている方が急に調子を崩したときに往診で対応する、という組み合わせになることが多くあります。
当院は在宅療養支援として24時間・365日の体制をとっており、緊急の往診にも対応しています。日中だけでなく、夜間や休日に不安が強まることもある——そうした時間帯を含めて相談先があることは、在宅での治療を続けるうえでの土台になります。
精神科の訪問診療は、どんな方が対象になるのでしょうか
「うちの家族は対象になるのだろうか」。ここが一番知りたいところだと思います。制度上の大きな考え方としては、通院が困難であることが前提になります。ただ、精神科の場合「通院が困難」の中身が、身体の病気とは少し違います。
通院が難しくなる、こころの側の事情
- 不安が強く、電車やバスに乗れない、人のいる場所に行けない
- うつ症状が重く、起き上がる・身支度をするところで力尽きてしまう
- 長期間ひきこもっていて、外出のきっかけが失われている
- 病気である自覚が持ちにくく、医療機関へ行くこと自体を拒んでいる
- 認知症が進み、ひとりでの通院や受診の約束を守ることがむずかしい
- 身体の障害や高齢のため、物理的に移動がむずかしい
こうした状況が重なっているとき、訪問診療という選択肢が出てきます。逆に、ご本人が自力で通えている場合は、まずは外来での診療が基本になります。訪問診療は「通院より便利だから選ぶもの」ではなく、「通院という手段がとれないときに、治療を途切れさせないための手段」だとお考えください。
対象になるか迷ったら
ご自身で線引きをするのは、なかなかむずかしいものです。「この状態で頼んでいいのだろうか」と遠慮して、何年も動けずにいるご家族も実際にいらっしゃいます。判断に迷うときは、まず電話やメールでご相談ください。状況を伺ったうえで、訪問診療が適しているのか、まずは外来で診るほうがよいのか、一緒に考えていくことができます。
どんなことをしてくれるのか
訪問診療と聞いても、具体的な中身がイメージしづらいかもしれません。精神科の訪問診療では、おおむね次のようなことを行います。
診察と状態の把握
ご本人の話を伺い、睡眠や食事、日中の過ごし方、気分の波などを確認していきます。ご家族からお話を伺うことも、ご本人の同意のうえで行います。診察室では短時間で済ませがちな生活のことも、ご自宅ではじっくり話題にできます。
お薬の処方と調整
必要なお薬を処方し、効き方や副作用を見ながら調整していきます。飲み忘れが多い、勝手に中断してしまう、といった服薬の悩みも在宅ではよく出てくるテーマです。薬の置き場所やタイミングを生活に合わせて組み直すといった、現場でないと気づけない工夫もあります(うまくいくかどうかは、その方の状況によって異なります)。
身体の状態の確認
精神科の治療を続けていると、身体の面も気にかかります。血圧や体重の変化、便通、持病の様子。当院は心療内科・精神科に内科を併せたファミリークリニックですので、こころと身体を切り分けずに診ることができます。長く家にこもっている方ほど、身体の不調が見逃されやすいという面もあります。
生活や制度のご相談
自立支援医療制度や精神障害者保健福祉手帳、障害年金といった制度の話も、在宅での生活を支えるうえで避けて通れません。必要な診断書の作成についても、診療のなかでご相談いただけます。
費用はどのくらいかかるのでしょうか
ここは多くの方が気にされるところです。まず押さえておきたいのは、精神科の訪問診療は公的医療保険の対象だということ。自費の特別なサービスではありません。
保険の自己負担が基本
医療保険が使えますので、窓口でのお支払いは年齢や所得に応じた自己負担割合(1〜3割)に応じたものになります。訪問診療では、診察そのものに加えて、在宅での医療管理に関する費用や交通費相当がかかる場合があります。金額は訪問の頻度や行う医療の内容によって変わりますので、「一律いくら」とお伝えできる性質のものではありません。開始前に、見込みをお伝えしたうえで始めるのが一般的です。
負担を軽くする制度
精神科の通院医療には自立支援医療(精神通院医療)という制度があり、要件を満たすと自己負担が原則1割に軽減されます。訪問診療もこの制度の対象になります。申請は、お住まいの区市町村の窓口で行います。練馬区にお住まいの方は、区の担当窓口が申請先です。申請には医師の診断書が必要で、当院では自立支援医療制度申請用の診断書を5,500円(税込)で作成しています。
また、医療費が高額になったときの高額療養費制度、障害者医療費助成など、使える制度が重なることもあります。「こんなにかかるなら無理だ」と諦めてしまう前に、一度ご相談いただければと思います。
ご本人が受診を嫌がるときの、ご家族だけの相談
当院では、ご本人がどうしても受診を拒む・来られないという場合に、ご家族だけでお越しいただく相談をお受けしています。これは診療ではなくご家族への相談対応にあたるため自費で、料金は13,200円(税込)、1回あたりおおむね60分程度のお時間です。保険診療ではないため、医療費助成や自立支援医療の対象にはなりません。お薬の処方や診断書の発行はできず、あくまで状況を伺って今後の進め方を一緒に考える場になります。お話を伺ったうえで、訪問診療につなげていくこともあります。
「本人を連れていけないから、もう何もできない」。そう思い込んでしまう必要はありません。ご家族が最初の一歩を踏み出すという道もあります。関連して、ご家族だけで受診する場合の流れについては摂食障害の相談は何科か|家族だけで行くときの初診の流れでも触れています。
申し込みから訪問開始までの流れ

1. まず連絡して、状況を伝える
電話、メール、LINE、ホームページなど、相談しやすい方法でご連絡ください。このとき伝えていただけると話が早いのは、次のような点です。
- ご本人の年齢と、現在の様子(どんなことに困っているか)
- いつ頃から、その状態が続いているか
- これまでに精神科や心療内科にかかったことがあるか、今も処方があるか
- ご本人が訪問診療のことをどう受け止めているか(知っているか、拒んでいるか)
- ご自宅の場所と、同居されている方の有無
2. 対象になるかの確認と、日程の調整
伺った内容をもとに、訪問診療が適しているかを検討します。地域によっては対応範囲外ということもありますので、所在地の確認は早めに行います。
3. 初回訪問
医師がご自宅に伺い、ご本人と、必要に応じてご家族からお話を伺います。初回は、これまでの経過や今の困りごとを整理する時間になることが多いです。ご本人が最初は部屋から出てこられない、ということもあります。そうした場合でも、無理に引き出すことはしません。
4. 診療計画を立てて、継続
訪問の頻度や、どんな治療を進めるかを相談しながら決めていきます。状態が落ち着いてきて、外来に通えるようになる方もいらっしゃいます。その場合は、訪問から通院へと切り替えていくことも選択肢です。
訪問診療を行うクリニックを選ぶときに、確かめたいこと
どこに頼めばよいか分からない、という声もよくいただきます。事業者の一覧を並べることはしませんが、問い合わせのときに確認しておくと判断しやすい項目をお示しします。
| 確認する項目 | なぜ確認するのか |
|---|---|
| 訪問できる地域の範囲 | 自宅が範囲に入っていなければ始められないため |
| 精神科の診療に対応しているか | 在宅医療を行っていても、内科中心で精神科は扱わない場合があるため |
| 夜間や休日の連絡先があるか | 調子の変化は診療時間内に起きるとは限らないため |
| 身体の不調にも対応できるか | 持病や身体症状を別の医療機関に分けると負担が増えるため |
| 訪問の頻度と、おおよその費用 | 続けられる見通しを立てるため |
| ご本人が拒んでいる段階から相談できるか | 最初の一歩を踏み出す窓口が必要なため |
この6点は、電話での問い合わせの段階でほとんど確認できます。いくつかの医療機関に同じことを聞いてみると、違いが見えてくると思います。
練馬区・大泉学園での当院の体制
ケルソンファミリークリニックは、練馬区大泉学園町5丁目にある心療内科・精神科・内科のクリニックです。西武線大泉学園駅から西武バス「大泉郵便局」下車、徒歩1分。在宅療養支援として、24時間・365日の体制と緊急往診に対応しています。
うつ病、双極性障害、適応障害、不安障害、パニック障害、強迫性障害、摂食障害、睡眠障害、ADHD、ASD、認知症といった疾患に対応しており、あわせて内科として風邪症状や腹痛、落ち着いた状態の生活習慣病なども診ています。こころの治療と身体の管理を同じ場所で続けられることは、在宅で療養される方にとって負担の少ない形だと考えています。
診療時間は午前9:00〜12:30、午後14:30〜18:00(水曜休診)。土日祝・年末年始も診療しています。平日に動けないご家族が相談しやすいよう、休日も窓口を開けています。外来の受診は予約なしでも可能です(予約優先)。予約は電話・LINE・メール・ホームページから承っています。
院長の田中良恵は精神保健指定医で、日本医師会認定産業医、クロザピン登録医でもあります。英語での診療にも院長が直接対応しており、中国語は翻訳アプリや医療通訳を介してご相談いただけます。
当院のコンセプトは「こころと身体、家族ごと診る、心療内科ベースのファミリークリニック」。ご本人だけでなく、支えるご家族の疲れも含めて受け止められる場でありたいと思っています。
よくあるご質問
本人が訪問診療を嫌がっています。家族だけで相談できますか。
精神科の訪問診療に健康保険は使えますか。
訪問診療と往診は何が違うのですか。
訪問診療を頼めるかどうか、どこで判断すればよいですか。
問い合わせのときに、何を伝えればよいですか。
最後に
通院が途切れてしまったこと、ご本人を連れ出せないこと。それをご家族が「自分のせいだ」と抱え込んでしまうことがあります。でも、こころの不調で外に出られなくなるのは、病気の症状そのものです。家から出られないから治療を受けられない、という順番を、訪問診療はひっくり返すための仕組みです。
練馬区で精神科の訪問診療を探している方が、まず確かめるとよいのは、訪問できる地域、精神科に対応しているか、夜間休日の連絡先、身体の不調も診てもらえるか、費用の見込み、そしてご本人が拒んでいる段階から相談できるか。この6点です。ここが整理できれば、次に何をすればよいかが見えてきます。